主婦(仮)その3

「場面、切り替わって」



美月は、一体どうしてしまったものかな。
客先に向かう社用車を運転しながらタカハシは、やや斜めになって考えた。

格好つけてしまったのも、こうしている間にも美月によって自分のこと
自分たち夫婦のことを描かれてしまうのではないかというを考えたからだ。

今までのようにだらしないことは、できないぞ。

でも自分のだらしなさは成人一般男性と比較して、まだ、マシなはずだ。
そこは逆に自然体でいたほうがかえって共感をもたれたり好感度が上がるかもしれない。
それにあの美月が自分を貶めるようなことを書くはずがない。
過去の浮気疑惑など、断じて書くはずがない。

それにそもそも私小説だと決まったわけではない。
きっと、話の中で自分をモチーフにしたサラリーマンや夫を登場させる程度だろうな
と考えることにした。

タカハシは、集金を済ませ、商品を補充した。
「こちら新しくなったドリンクのサンプルです。牛乳で割っても美味しいんですよ。」

購入する気配は見せないが「無料ならいただこう」という具合いに
試飲用に用意したカップはすべてなくなった。

「1本3000円もするの?」

「1本あたりのお値段はしますが、希釈していただければ一日あたりたった30円程度なんですよ。コラーゲン入りで美容にもいいですし、美味しいですよね。」

心なしか、女子社員の視線を感じる。
というのは嘘だ。
心なしかと、いうより俺を見ているのは明らかで、この会社では過去に3回
合コンしてくれと頼まれた経験がある。

と、この取引先に来るたびに思っているなんていうのは
相当格好悪いよな、やはり「視線を感じるような気がするが、自意識過剰なのかもしれない」
もしくは、女子社員の視線については一切触れず
いかにそつなく、業務をこなしているか、いちサラリーマンとしての力量を
自然と魅せるほうが得策ではないか。

「ありがとうございました。またよろしくお願いいたします。」

対応してくれた女子社員にも、いつものようにきちんとしたお辞儀をして
にこやかにその会社をあとにした。

美月と結婚した今、社用車では、特に運転マナーに気をつけている。
煽り気味な運転やクラクションはもってのほかだ。
「工事中につき徐行」
誘導がモタモタしていて舌打ちしそうになる。
昔の俺なら、構わず発進させたかもしれない。

と、気づいたときみには遅かった。

「やべー間違って名前、言っちゃった」













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