主婦(仮)11

冒頭に出てきたスーツ姿の男性は、夫だった。

名前を呼ばれたので、そのことはすっかり忘れてしまっていたけれど
ふつうだったらそこでもっと取り乱したほうが良かったかもしれない。
「なぜ、夫が!」

隣には、私と同年代くらいの、私に似たちょっと地味目の女性が座っていて、私と同じくらいおなかが大きい。とりあえず癖で会釈をしてしまったところ、その女性も同じように会釈を返した。

私に夫も気づいたようだ。
「話しは帰ってからするから。」
「佐々木です。はじめまして。小説の奥さんですよね?お話は伺っております。」

処方された薬はまだ受け取ってもいないのに、登場人物が増えました。
名前とかよりも、関係性やどうして夫と一緒にいるか、などを教えていただきたいです。

「悪い、今時間ないから俺診察に付き合ったら、会社戻るから。」

ほどなくして、女性と*素敵な名前(仮)*さんは診察室の中へ入っていきました。

そのあとのことは面倒なので全部わたしが説明してしまうと、
その女性は私と出会う前からずっとお付き合いしていた生身の人間だそうです。
戸籍もちゃんとあるので、もうすでに結婚しているそうです。

私はだいたい紙の材質でそのときは雨に濡れていて、延びたうどんみたいで、
しわしわのくしゃくしゃなのが、可哀想になって連れて帰ってきてくれたそうです。


私は現実に戻りました。

「毎日、3分眺めるだけで目と運が良くなる!幸運のマジカルアイ」

それが私です。

*素敵な名前(仮)*さんが「美月」と彼女には呼んでいることはそのとき知りました。
確かに無駄に神々しい月のグラフィックも載っていました。
*素敵な名前(仮)*さんはそのグラフィックが気に入ったいたみたいです。

でも、現実に戻った今
私は道端に落ちていた「毎日、3分眺めるだけで目と運が良くなる!幸運のマジカルアイ」だったな、としか思えなくなったし、
もう全部疲れてしまったし、また道路にでも横たわろうかなって気持ちにもなってきました。
濡れたアスファルトの気持ち悪さは、きっと濡れた紙にしかわからないと思います。

ここで泣くと、またしわしわになるので、水分は厳禁です。
せっかく今はそれなりにきれいな人間の姿なのだから、泣かないで我慢しよう。

それに、せっかく植物先生からお薬もいただいたし、七千円の出費を無駄にするのも
勿体ないです。

私は考え直すことにしました。

こういうのを揺蕩っていうのかな、と思いましたが、画数の多い漢字は
私らしくないので気持ちはゆらゆら揺れてますって書いておこう。

あと家に帰ったら、薬を飲もう。


















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