消費者金融とあなた
サエキは子分のエザキに電話をかけた。
「悪いんだけどよー、明日まで50万。借りて欲しいんだわ。
電話番号はこれから教えるとこにかけてくれ。いいか、× × × –×× × × ×
何に使うか聞かれたら『友達と旅行に行く』って答えろよ。わかったな。
借りられたら電話くれ。」
エザキはかけるべき電話番号、旅行、お金を借りる、ということ
を頭の中で短文にして理解し、
言われた通りに電話をかけた。
オペレーターの女性がやけにハキハキした声で対応して
どんな顔をして喋ってるのか気になった。
アイふるのオペレーター、相野ふるうちは同僚から「あいのちゃん」か「ふるちゃん」
の愛称で呼ばれ、なぜか「ふるうちさん」と呼ばれたことはなかった。
3.0%から18%という業界切っての低金利と限度額800万円という太っ腹具合い!
数ある消費者金融の中でも優良な感じの、しかも社名ももなんだか
自分に似ていていい感じ。
もしや自分のためにあつらわれた消費者金融なのでは?
と思うほどの、思い込みと思い入れで相野は入社した。
即日融資には自信を持っていたし、
「この融資したお金であったかいごはんが食べられる」
「あたたかいお風呂に入れる」と思うと励みになった。
もちろんその裏でお金を返せなくて借金を増やしてしまう人もいるのは
知っていたけれど、
それは本人の計画性のなさが問題なので目を瞑っている。
電話口の男の人は初めてなのかな、ちょっと緊張している感じがする。
「ご融資ですね!」
「あーはい」
「ご利用額はおいくらですか?」
「50万円ほど」
いつもと変わらぬやりとり。
相手の緊張を解きほぐすような笑顔、笑声を心がけているんだけど
評判が悪いときもある。
「ロボットみたい」
と別の表現で言われたけど、
ようは「ロボットみたい」なんだろうなと思う。
慣れとは恐ろしいものでもう5年以上この仕事を
していると、
だんだん口調と声が機械じみてくる。
残念なことに初々しさのかけらもない。
たまに融資の理由で切なくなることはあっても、
そのひとつひとつに一喜一憂していては身が持たなかったし
そのへんは看護婦さんの仕事と似ていると思った。
「人には寿命がある」
「人にはお金が必要な場面がある」
さいあく寿命や借金で死んじゃうけどそれは仕方ないことで
なるべく健康で幸せな人生を送れるように
われわれは手助けをしているのだ。
と思うことにしている。
さてこのエザキというウシジマくんのキャラクターと同じ名前の
男性はどこに旅行に行くんだろう。
でも闇金ということはないんだろうな。
消費者金融にお金を借りる闇金なんて格好悪い。
へーそうか、そうか友達とハワイか。
この時期は安いし休みさえ取れたらいいかもしんない。
海外行ってみたいな。
なにがどうしてそうなったのかは
本人たちにしかわからないが、
相野とエザキはハワイどころかもっと遠い海外にいた。
「ふるうちさん、見てみてーこの海すごくない?」
「うっそまじ?それはだめだって。おれ中卒だし九九もいえないんだぜ!」
なにがだめかは不明。
「いあーでもエザキくんってなんか頼れるし
一度海外行ってみたかったんだよね」
めでたしめでたし
というこれは節子の何かと報われないエザキに対する
妄想なんだけれども、
エザキは無事金を借りることができたらしい。
そして相野さんはすごいハキハキしている。
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