綿ぼこりに名前をつけるだけのお仕事です。


新聞のチラシに新しい求人が出ていた。

【急募】綿ぼこりに名前をつけるお仕事です A-1O4

最近まで仕事をしていた方が都合でできなくなり、代わりの方を急募しております。
過去物を添付しておりますのでまずはHP必ずご覧ください。
綿ぼこりに一つ一つに名前をつけるお仕事です。
ご連絡をお待ちしています。

【資格】要普免  
【休日】土日・祝日
【給与】12〜15万円

担当:コバヤシ

そもそもどうして埃って灰色なのか。
そこから考える必要があるので、私はちゃんと調べました。

絵の具を混ぜると黒っぽく淀んだ色になるように、綿ぼこりの主成分である繊維や土埃がが混ざりあることによって灰色になるそうです。

ベッド下の綿ぼこりはどうして毎日あんなに発生するのでしょうか。
気になった私は監視カメラを設置して一日に八時間程度監視カメラで監視することにした。
この監視カメラ、私が寝ている間も録画してくれます。

その結果、綿ぼこりが生まれる瞬間に立ち会うことに成功しました。
ああそうだ、名前をつけてあげないと。と思い出して、
その約一かたまりに、名前をつけることができませんでした。

求人を思い出して、過去の作成した名前の一覧のPDFファイルをダウンロードしました。

A4一枚には20個の綿ぼこりの写真と一緒に名前が添えられていて、
100個分、5枚のサンプルが添付してある。

どうやら綿ぼこりの写真を撮る部署もあるみたいです。

それは内職で求人が出ていたのですが、1個あたり10円で
10円ガムやうまい棒がたくさん買えてかもしれないけれど
駄菓子を買ったとき、埃っぽい味がしそうなので内職のほうはよそうと思いました。

思い立って、求人の件で電話をしてみた。

「◯◯と申します。求人を拝見いたしました。担当のコバヤシさんをお願いいたします。」

「はい、私がコバヤシです。」

体がびくりとする。
私はいつもこのパターンに慣れません。
コバヤシさんは女性でした。

「失礼しました。あの、求人の件でお伺いしたいのですが実働時間はどのくらいになりますか?」

「お手元に求人票はございますか?すみません、いくつかの部署で募集を行なっているもので」

「あの、綿ぼこりの仕事なんですが。」

「綿ぼこりですね。求人の中にAから始まる記号があると思うのですが、そちらを読み上げてもらってよろしいですか?」

「A-1O4です。」

「合格です!」

「え?」

「さあやさんでしたっけ。あなた面接試験に合格ですよ!」コバヤシさんの声のトーンが
3つくらい上がっている。

「ちょっと待ってください。私は求人の勤務時間を訊きたかっただけですし、
まだ働くと決めたわけじゃないので。」

「失礼しました。勤務時間ですが、平均して3〜4時間程度になります。
基本的に残業はありませんがいかがでしょうか。」

「そうですね。そのくらいの勤務時間なら大丈夫かもしれません。
応募すると思うので、またよろしくお願いします。」

「はい、ご連絡をお待ちしておりま」

電話の切るボタンをたっぷり間をとって押そうとしたけれど
失敗して途中で切ってしまった。

綿ぼこりの研究でこれから忙しくなるが、
一日四時間程度なら時間を取れるだろう。

Kくんに働いていいか、一応確認してみよう。


ちなみにKくんというのは私の心の拠り所で、家族のようなもので、この世に存在しない。
容姿は形容してしまえばそのイメージが固定されてしまうので、日替わりにしている。

「Kくん、この求人だけどどう思う?」新聞の求人チラシを見せた。
だけど、あんまりちゃんと見てくれていないことは誰が見ても明らかな感じで、ゲームの画面から目を離さない。

Kくんの仕事はゲームのテストプレイと開発なので、どこから仕事でどこから
プライベートなのかわからない。
どう見ても遊んでいるのに仕事中だからって、ってぴしゃりと言われたときもある。

「だめに決まってるじゃん。」
「もーちゃんと見てよ。ほらほら、お給料がけっこういいんだよ。15万円だって、
さらに勤務時間も三時間くらいだって」

「だめだよ。さあやちゃんが外に出るのすげー心配だし。」

「そうは言ってもそろそろ私も働かないと失業保険も無くなるし。この家賃だってずっとKくん払って貰うの悪いしさ。」

求人チラシをチラ見したKくんは、すぐダメ出しをする。
「要普免だって!これはきっと配達とか営業先周りとかいろいろさせられるんだよ。
さあやちゃん運転苦手じゃん。」

「そうなのかな。そうだ。綿ぼこりの観察を忘れるところだった!Kくん先お風呂入っていいよ。今沸かしてるから」

「うん。綿ぼこりの観察もほどほどだよ。毎日お疲れさま。」


2月12日

今日は先日購入した電子顕微鏡で綿ぼこり1号を観察した。

肥大化した1号は持ち上げるとき周囲の名もなき綿ぼこりとくっついてしまって
もはや1号ではなくってしまった。

私はそれでピンときた。そういうまとまってしまう自体に備えて綿ぼこりに名前をつける必要があるのではないかと。

電子顕微鏡でみた1号、2号、3号は意外にも色とりどりででどうしてこれが
灰色に見えるのかよくわからかった。













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