あなたは誤解している


相談者は東京都に住む夕子さん(仮名)29歳は
自営業を営む夫のことで悩みを抱えるらしく電話をかけてきました。
だが全く要領を得ず、
未婚で家庭を持ったことのない節子はただただ話しを聴くしかできませんでした。

「すごい夢がいくつもあって、将来はステンドグラス工房を開きたいって言うんですよね。」

「ステンドグラス、素敵じゃないですか。ご主人ステンドグラスお好きなんですね」

「あいやー、それがステンドグラスを一つも持ってないんですよ。」

「ええ!じゃあ、なんでまた?」
「うーん」
およそ5秒間考え込む夕子。
天井と床に交互に目を落とし唸っている。

「よく考えてみたんですけどわかりませんでした。すいません。」

申し訳なさそうに謝る姿に節子は夕子が初対面ながら何かしらのシンパシーを感じ力になりたいと思った。

「いえ、いいんですよ。こちらこそすみません。」

夕子は話すと長くなることをためらい、別の話題を出そうとした。
でもさっき全力で考えてしまったのでその余力がなくなってしまって
もっと相談することをまとめてから来れば良かったと思った。

立て続けにさまざまなことが起こると処理できなくなるのかな、
私さっき頭を揺すったせいで全部こぼれ落ちちゃったのかな、
と莫迦みたいなことも考えたけど、せっかく出されたお茶をすすろう。


読者諸君、ここで場面変わります。


「奥さんもご意見もありますし、まずは外注されてみるっていうのはいかがですかね」
銀行の若い営業マンは融資の契約を取ってくるのが仕事なのに
夫の新しい事業案にはどうやら反対で融資を渋っているようだ。

「車のサイドミラーを手作業で1枚ガラスから切り出す」という新事業は
二週間前に思いついて、朝食のときに
「やってみたいんだよな」と言っていた。

「いいんじゃない?」夕子は夫のこうした提案に反対しても賛成しても、
あまり結果に影響しないということを長年の経験から心得ていたので
最近は曖昧な返事をしている。

ところが数日後、韓国のガラスメーカーから1m四方のガラスが届いた。
5枚中3枚が割れていた。
そして今会社には45万円したガラス切削機がある。

「あの、実はもうあるんですよね。切削機」

もうあるんですよねって、「出来上がったものがこちらです」的な
キューピー3分間クッキングみたいに言ってるけど
私はもうどきどきして気が気じゃない。

パーテーションが遮って営業マンの顔は見えない。
が、呆気に取られていることを祈りたい。

「社長ちょっと待ってくださいよ。あるって…なんで…
今までの会話なんだったんすか」

パーテーション越しでも気まずい空気が伝わった。
あとはいつものように上手くやってくれるんだろうけど、
気の毒でならない。

営業マンは帰り際、私のほうに意味ありげな視線を投げた。

今回はガラス切削機か、前回はコンプレッサーだったな。
その前は真空整形装置だった。

次から次へと会社の借金は嵩み、それが夕子の漠然とした不安の元凶だった。

本当はそろそろ子どもを産んでもいいと思っている。
でも「融資」と言えばきこえはいいけれど借金は借金である。

そんな莫大でもないにしてもごくごく普通に生きてきた夕子を
日常的に心配にさせるのに2,000万円は十分な金額だった。

車のローンを含めると2,500万円か。
果たして子どもを育てていけるのか。

節子はそこで心を読むのをやめた。

「夕子さん、一緒に節約してみませんか?」

それから夕子さんは節約に励み約3年後に赤ちゃんを授かってなんとか
ステンドグラス工房はやってないけれど
なんとかご主人ともうまくやってるみたい!

良かったね、夕子さん。




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