節子のファイナルシーズン後
時は20XX年、節子とK-MARIとの最終決戦は果たされることなく
2人は概念として地球に生き続けることになった。
K-MARIの概念「Spark joy」と節子の概念「Saving」は
「卵が先か鶏が先か」の問題に似通い、
「Spark joy」に傾倒するやつらは
白物家電や町内会、便利グッズに診察券、お墓はもとより、収納ボックス
に座布団の果てまであゆるもの、コトを棄て去った人間たちはとにかく暇になったので
お菓子を食べたり、映画を観たりしてのんびりしてGDPは低くなったけど
ときめきを大事に
「あー座布団があればもっとお尻が痛くなかったかもしれない」
などと、たまになくなったっていうか棄ててしまった座布団のことを思い出したり
していた。
「Saving」に傾倒するやつらは
超人的な代謝の悪さを持ち合わせ、夜中に食べた饅頭一個で3日は生きることができたし
「Spark joy」派、つまりSJ党の棄てたものを拾ってきては
改良し自然エネルギーと人力で動くようにして「ちょっと便利」を糧に生活していた。
まだ2人が概念になる前、
「手放す」ことと「手に入れないこと」どちらが先であったのか
その関係性のジレンマを時に2人は「おさかなのバー」で語り合い、
K-MARIは節子が「マリ、ごめん。私明日朝から胃カメラだから8時以降、水以外飲めないの」と説明がちに遠慮すると、
「節子、それ先週も言ってたよ。いい加減胃カメラとか健康診断を理由に
飲食店で何も注文しないのやめなよ」
とにこりともせずに言って、
お店の空気をひんやりさせては
内心2人して「あ、ちょっとこれエコかも」って思って
ふふって笑ったんだ。
ときにはジムでエアロバイクを漕ぎながら、
「節子がときめくものってなに?」
「んー保育園から使ってるガーゼのタオルケットかな。ふんわりしてて
あれこそときめきの塊だね」
「げっ、あんたまだそれ使ってんの?
けっこう前に泊まりに行ったとき見たけどあんなの向こう透けて見えてるし、
ボロ布通り越してボロネットじゃん!」
節子はデジタル画面の一点を視力検査のあれみたいだなと思いながら見つめ、
「そうは言ってもね、あれなくなると眠れないの。洗濯したときつらいレベルで」
「いやーでもだめだよー、ときめき以前っていうか絶対ドン引きだよ。
彼氏とか何にも言わないの?」
とK-MARIはぐりんと首ごと節子を見た。
これに気球があればまんまだよな。とまだ視力検査のことを考えながら
興味なさそうに
「彼氏ってほらデートとかでお金がかかるでしょ。だから結婚を前提にした人以外とは
付き合おうと思わないんだよねぇ。っていう話を前にもしたと思うんだけどな……」
と最後のほうはごにょごにょ口ごもるように節子は言った。
「ふーん、そうだっけ。しっかしここの健康ステーション安いね!1時間200円って
破格」
「でしょ、でしょ?年会費とか入会金とかないし利用者も少ないからおすすめなんだ。
ちょっと鄙びてるけど、逆に私はこのくらいのほうが落ち着くしお気に入り。マリも
こっちにしたら?」
「考えとく」
そんな会話をしたのはいつだったかな。
概念となってしまった今、もう思い出すこともできないけれど
確かに2人は「手放すこと」と「手に入れないこと」相反しながら、
対極に交わった。
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