(仮)


「やめてください。それ屍姦ですよ!」と、叫んだ。

え、ということは、私生きてるらしい。

生き返ったのかな。

でも泣きっ面に蜂とはこのことだよ。

死のうとしていたのに、よりによって、こんなの酷い。最低。

「うそ」と同年代っぽい男の子は、身を離してくれ

死にかけの私でしたが、なんとなく状況が掴めてきました。

いや、嘘ですやっぱり掴めませんでした。

男の子は、アレに似ていて芸能に疎い私なので芸能人の名前とかは

よく知らないのですが、「国民の孫」と言われている

ティーンから祖父母世代にもウケのいい、好青年によく似ています。


さっきまで死のうとして、酒をかっくらい凍死を狙っていた

私ですが一瞬でも、まじで。ちょっとラッキーと思ってしまったことが悔しいです。

「俺、浅はかリョウマ。君の名前は?」

そんなことあるわけない。あの、浅はかリョウマくんがこんなことをするなんて。

ゲロまみれの瀕死に私に声をかけてくれるなんて。

「わ、わ、わたしは三木です。」咄嗟に嘘をついてしまった。

せっかく仲良くなれるチャンスなのに。

またしても私にひどいことをしようとした人について、チャンスだなんて思ってしまった。

三木の阿呆!ドジばか間抜け。

「へー三木って苗字?」

「えっと」と考えた時点で嘘がバレてしまいました。


リョウマくんは「国民の孫」イメージと違って、死体愛好者だった。

出会ってまだ少ししか経っていないのに、そんな大事な秘密を私なんかに

話していいの。

サラサラヘアーのリョーマくん、ちょっと心配だよ。

でもちょっと合点がいったのは、死期が近い人いるホスピスなんかにも慰問に行ってたな、

とふと思い出しました。


でももっと合点がいったのは、私がそのあとリョーマくんに殺されたことです。

そうか、秘密を言っても殺してしまえば外部に漏れないもんね。

さすがリョーマくん。

誰にも自慢できないのが、悔しい。インスタで匂わせたい!

と、またちょっと思ってしまったその時です。

爽やかなシャンプーもしくはヘアオイルの香りが微かに香っていたのに

なんだか、おしっこくさい。

おしっこなんて生ぬるいものではなく、小便という言葉がぴったりなくらい

尿臭が漂ってきた。

私はたぶん無事殺されてちゃっかりリョーマくんと交わっているのかな、と思ったら

それはいつも釣り銭を少し投げ気味に渡していたホームレスでした。

「ひっ」

ごめんなさい。ごめんなさい。やや釣り銭投げ気味でごめんなさい。

でも、本当に臭かったんです。

許してくださいと祈りました。

いつも凝視していた、安全ピンで止めているズボンのチャックから

灰色の仙人が現れたのです。

「ほっほっ。そんな時は息を止めればいいのじゃよ」

「あ、なるほど」私は息を止めてみました。

すると悪臭は少しマシになり、これなら釣り銭も普通に渡せるかもと思いました。

あとだいたい仙人が助けてくれるに違いない思ったのですが都合が悪く

「お前は、私が助けてくれると思ったじゃろ」と見透かされ

「リョウマくんなら良くて、このホームレスは駄目というのは都合が良くないかい?」

確かに、言われてみれば。このホームレスの方も同じ人間。

さすが仙人だわ。

「ほっほっ。ようやく気づいたかい」

「あとそのホームレスは浅はかリョーマくんの未来の姿なんじゃよ」

すると仙人は消え、仙人と思っていたのは実は仙女で、

国籍不明なイントネーションで

「仙人が男の老人っていうのもあなたの固定概念ヨ」と、どこかへ消えてしまった。

まじか。

やっぱし私は路上でゲロまみれだったけれど、ちゃんと生きていて

通りすがりの人に助けてもらい、重症じゃなかったけれど一命を取りとめました。


それ以来、私はは痴漢にも寛大な心で「これはリョーマくん」と思うようにしたところ

何も死のうとする必要はなかったと気持ちを改め、

また痴漢に遭遇したときはけっこうな額の示談金を払ってもらい

比較的ベストな形で立ち直ることができました。

そしてそのこと以上に喜ばしかったのは、その後のホームレスのおじいさんのことです!

なんとー!!


という夢を見たので、いろいろ気をつけようと思います。






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