行列のできるカヌレ屋さん殺人事件-②

「ほら、この『ぺんぽこ』って人だけど、他のお店のレビューも全部ひどいよ。まだまみさんのお店なんかマシなほうだよ。これ、見てみて」

「ほんと。全部レビュー星1ばっかり!!」とまみさんは目をパチクリする。

「でしょでしょ。だから気にすることないって。でも念のためこの『ぺこぽん』のことについてはもう少し調べてみたいと思うんだけど、どう」

「うん、でもこれ以上調べるってどうやって?」

「お店の外と中に監視カメラがあるでしょ?」

「うん。駐車場が映るやつと店内の防犯用のがあるよ」

「その記録ちょっと借りることできないかな」

と、私はまみさんに捜査の協力を要請してその女性が来たと思われる日の前後の防犯カメラの映像を借りることができた。

あと「お礼」と言って187のお菓子のギフトをこれはまた可愛らしい

オーガニックな包みに入れたものをくれた。

私は座椅子に片膝を立てた行儀の悪い格好で、黒糖バナナマフィンをぼろぼろ畳に溢しながら防犯カメラ映像の解析作業をしている。

バナナと黒糖のやさしい甘味、パサパサのマフィンとたまにねっとりとした黒糖バナナの織りなす食感の楽しさ!

でも、すんごい溢れるので洋服もマフィンの粉だらけだ。

バサバサとワンピースをほろって

あとで母が掃除機をかけてくれるだろう。と作業を続けた。

どうやってお店の悪いレビューを書いた女性を割り出したかは、過去のことなので忘れてしまったけれど

私は『ぺこぽん』という女性の背格好、車種、ナンバーを特定した。


女は165センチ前後・30代〜40代

ダイハツミラターボの赤 き-1771

そして我が家の秘密兵器、弟の充の出番である。

充は車の車種とナンバーを記憶することが大得意で過去に、

ひき逃げを目撃した際に正確な車種とナンバーを報告し

ひき逃げ犯の検挙に多大なる貢献をしたため表彰状を貰ったりしていた。


「充。いい?このミラターボを探して欲しいの。期限は3日よ。」

「はあ?俺そんな暇ねーし」

あっさり断れてしまったが、こんなことで引き下がれない。

「ねーちゃんの一生のお願いなんだよ。友達が困ってるの。これをしないと

187のお菓子がもう食べれないかもしれないんだよ?あんたそれでもいいわけ」


「俺そんなに甘いもの好きじゃないから、バイト代払ってくれるなら協力してもいい」

「仕方ないわね。1日3,000円それ以上は払えない」

「1日5,000円。それ以下ならやらない」

「わかった。1日で見つかったら5,000円払う。その後は3,000円よ。いいわね?」

こうして交渉は成立して、悪意レビュー魔の捜査ははじまった。


だがしかし、時同じ頃まみさんが何者かによって殺されてしまったのだった。

しかも私が防犯カメラのハードディスクを借りて来てしまったため、防犯カメラに人の出入りは記録されておらず

こんなタイミングの悪さって嵌められたとしか思えませんか。

きっと私は犯人の策にまんまと乗せられてしまったのだ。

あと順番が前後するけれど、なぜ私がまみさんが殺されてしまったことを知ったかと

いうと私あてに警察から連絡があったから。

「よおこ!警察から電話よ」母はまだ何もしてないのに叱るような口調で

受話器を渡してきた。

「柿崎ようこさんですか。ノース秋田署の野沢といいます。ご友人の田代まみさんのことなんですが」

と野沢と名乗る刑事さん?警察署の職員は、昨晩まみさんが亡くなった。それも刃物で殺されたというのだ。

そして、私は事情聴取を受けることになった。

母には殺人事件に巻き込まれたことを説明するのは面倒だったし、ニートでただでさえ

肩身が狭いのに殺人の容疑をかけられてはたまったものではなかったので

「友達の身柄引き受け人になったからちょっと警察に行ってくる」と適当に嘘をついた。


ノース秋田署は去年リニューアルオープンしたばかりで、役場のような雰囲気で警察にきているという後ろめたさを払拭してくれるような佇まいだ。

受付の女性に名乗り、そのへん緑の椅子に掛けているとばらくして野沢さんという

さっき電話した男性が現れた。

野沢さんは初めて勤めたスーパーの店長に似たがっしりした体型で威圧感が強い。

「どうぞこちらで」と別室に案内され、まみさんが殺された事について

捜査中だから詳しくは言えないけど

昨日の閉店後に、何者かによって刃物で刺されて殺されてしまったらしい。

あとお店の商品すべてと現金もなくなっていたそうで

強盗殺人事件として捜査を進めているらしいのですが、私にも最近のまみさんのことに

根掘り葉掘り聞かれて

悪意レビュラーのことでおととい会って相談に乗ったことは正直に話した。

でも、防犯カメラのハードディスクのことについては特に聞かれたかったので

そのままにしておきました。

野沢さんは調書を部下っぽい人に書かせながら「今日はご足労をかけました。また連絡するかもしれませんが、その時はよろしくお願いします」

と拘束時間1時間ちょっとで家に帰ることができた。




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