天使禁猟区(仮)その2

 「あ」僕は思わず声を上げそうになった。

あの男は前に会ったことがある。


会ったことがあると言っても、正式に笑子に紹介されたわけではなく

たまたま二人が一緒にいるところに僕が出くわしてしまったような形だ。

僕はそそくさと視線を逸らして、気づいていないふりをして

やり過ごそうとしていたのに笑子のほうから声をかけられたのだった。

「助六さん」

「僕の行きつけ」と紹介した喫茶店はすっかり笑子の行きつけになった。

親しげに見えたのは、気のせいだろうか。

もしかすると仕事の同僚かもしれない。

夫ではないことだけが確かだった。

僕らは自由な結婚をしていたけれど、一部ちゃんとしたところもあって

彼女の夫とは僕の妻も含めて何度か食事に行ったり、一度は一緒に旅行に行く話しが

出たくらい仲良くさせてもらっていた。

それなのに、なぜ。

彼女は僕の名前を呼んでにこやかに手を振った。

僕はそそくさとコーヒー豆を買って店を出た。


わたくし大天使・我武理衣留様は先生の少しだけ心の内を汲んでみた。

先生とあの男性は会ったことがあるのね。

あと現時点で笑子さんを犯人は天使なので分かっているけれど、

天使なので直接的にメモ紙に「犯人はアベ」

とか鏡にリックスティックで「KILL YOU」とか書けないのが困りどころ。

それに警察はそこそこ有能なので、きっとこの事件はうまいこと解決してくれるので

まーいっかと思っている。

研究所の呼ばれたのは研究所の職員以外は、先生と謎の男性だけみたい。


警察の人が言っていたんだけど

「ここのセキュリティーシステムは生体認証で、研究所の職員以外はブイマックスが入っている棚は開けられなかったわけですね」

「はい。職員の中でもブイマックスの棚を開けられるのは私を含めて田所さんと他今ここにいる7名だけです」


研究所の所長が捜査官と話しをしているのを立ち聞き中なんだけど、ぶっちゃけこの中にも犯人はいません。

早く盲点に気づいて捜査官!

そして、このブイマックスと呼ばれている生物兵器は炭疽菌を約700倍くらい強力にした

ものらしくて大体炭疽菌を一般的な封筒で送って開封された場合の殺傷人数が

1〜2なのに対して、半径700メートルに対して有効で実験の予想値では700人〜1000くらいは死んじゃうかも?

といういう強力な兵器でした。

幸いにも、と言ったら遺族の方に怒られちゃいそうだけど

笑子さんは密閉空間で一人で亡くなったので誰も巻き添えならず、亡くなったのです。

亡くなるまでの2時間くらいで、旦那さんや娘さん、親しい方に連絡をして

zoomとかSkypeとか使って、ちゃんと看取られてなくなったらしい。


でも笑子さんは自分を殺した犯人のことは分からないみたいで

その点に関しては、諦めていたんじゃないかな。







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