天使禁猟区(仮)その1
「先生、私は殺されました」と電話がかかってきたのは、今から約10時間前のことだった。
汚染物質の除去作業を終えた電話の主の遺体が目の前にある。
ちなみに私は先生の電話を立ち聞きしただけで、事情はそこまでよくわからない。
知っている範囲だと研究所で生物兵器が漏れ出すという事故があったらしく、一人の女性研究員が亡くなった。
遺体は黒く黒ずみ、網目模様と包帯の巻かれた中指にはこれといった傷は見当たらない。
先生は犯行の直後に亡くなった女性、田所さんから電話がかかってきたせいで
事件現場に出向いてそこで取り調べを受けることになって、ちょっと可哀想&面倒だろう。
奥さんがきっと心配すると思う。
と、私は通りすがりの天使なので当事者よはよっぽど気楽です。
しばらくは暇なので先生について行くことにしました。
あと、私は人の名前を覚えるのがとても苦手なので、要所要所でメモをとっておくます。
亡くなった女性研究員は田所さん(下の名前は笑う子供と書いて、えみこさんだそうです)
先生は奥さんに「ちょっと用事があって遅くなるよ。夕飯は先に食べていていいから」
という電話をかけていました。
奥さんは忙しかったので「はいはーい」と二つ返事で先生より先に電話を切って
まさか事件に巻き込まれている系だとは気づいていない様子です。
当たり前か。
研究所は練魔区のわりと立地の良いところにあって、電車を降りて徒歩7分くらい。
でも先生は自宅から黒のレクサス(SUV)で颯爽と向かって行きました。
あれれ、でも、すで変なことが起きていることに
大天使であるわたくし雅武理衣流ちゃんは気づいたのです。
みなさんも変って気づいたはず。
家庭内なのに、電話で会話をする夫婦なんだな、ということに。
つづく?
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