ダーティー・スイートワーク


世の中には
ワインのソムリエをはじめとする
「◯◯ソムリエ」
たるものが数多く存在する。
「野菜ソムリエ」「お茶ソムリエ」「コーヒーソムリエ」
「フルーツソムリエ」「枕ソムリエ」「タオルソムリエ」
枚挙にいとまがない。

その大半が味覚を活かしたものであるがほかにも触覚、聴覚、視覚と
五感が試される。

節子は節約家であるから、食事はあまりとならい。

目が見えない者の聴覚が研ぎ澄まされるように
節子の味覚は常人の数倍かそれ以上になってしまっていた。

サエキが死んでからちょっと気になっていた人数人と連絡を取ったところ、

「だったらうちで覚せい剤のテイスティングをやらないか」
と持ちかけられた。

その男とは面識はない。
ただ、サエキから節子に関する噂をきいていたらしい。

「だったらってなんなんですか。節約は趣味なので
そんなにお金に困ってません。
私の舌を試してみたいところはあるんですが、覚せい剤って犯罪ですよね?」

「節子さん、あなた法律には案外疎いんですね。
使用は犯罪ですがテイスティングは日本の法律では罪に問われないんですよ。」

「あら、それは全く知りませんでしたわ。失礼しました。
ではこちらの住所に送ってください。」

男からテイスティングの一連の流れをきいて、
節子は作業を開始した。

それはテレビで見るような白い粉末状ではなく、結晶になっていて
大粒の氷砂糖みたいだった。

このまま口に含んだらどうなってしまうんだろう。
と一瞬良からぬことを考えた節子だったが、
その価格は節子が一生節約して、さらにキャバクラで働いても稼げるような
金額でなかったため止めておいた。

結晶を同梱されていたプラスチックケースの中で
これも同梱されていた新品のクオカードで削り出して粉末状にする。

もっとポイントカードとか価値のなさそうなカードにすればいいのに。
節約心に火が付いてしまったけれど、
雑念を消してテイスティングに専念しよう。

まずは目視で不純物の有無を確認する。
特に問題はなさそうだ。
とはいっても初めて目にするので木片だとか髪の毛だとか
わかりやすい異物でなかれば気づかないかもしれない。

粉末になった覚せい剤をガラスパイプの先端の球状になった
ところにほんの少量入れ、
ライターで炙る。
その気体を吸い込むという作業だったが、タバコも吸ったことがない
節子は説明を受けたにも関わらず、
戸惑った。

「なにこれ気体、出てこないじゃない」

節子は急いで男に電話をかけたが電話はコールするだけで
一向に繋がらない。

節子はひとつの可能性を信じて
すり潰してないほうの結晶を口にひょいと入れてみた。

「これは水晶だわ」

つづく






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