【】ハ イ・プレッシャー

「湊くん、今日遊べる?」
インターホン越しに近所のそうたくんが訊いている。

「うん。いいよ、上がって」
俺は母にアイコンタクトで確認をし、頷いたのを見て
そうたくんを家へ招いた。

と、思ったら、見知らぬ子と斜向かいのよしときくんも一緒に招き入れてしまった。
こんなはずでは。
母は台所で洗い物を始めたが、その音がいつもより荒々しいように感じたのは
気のせいだろうか。

俺たちは、各自持ち寄ったゲーム機でマインクラフトやフォートナイトで遊んだ。
俺の宿題はプリントを1枚やったきりで、あまり進んでいない。

母が時折「湊、宿題やっちゃいな」と言ってくるのだが
そうたくんが俺に「せっかく遊びに来てるんだから、あとでやったらいいじゃん」
「さみしい」などというものだから、
俺の宿題はそこからさっぱり進まなかった。

「湊、宿題」

俺が宿題に取り掛かると、そうたくんが目ざとく見つけて
「湊くんも遊んでくれないとつまならないよ。」とゲームに連れ戻される。

そのうちに母も諦めた様子で、しばらくリビングでPCの操作をしていた。
でも集中できないのかしばらくすると二階の仕事部屋に行き、またしばらくするとリビングへ戻って来た。

「湊くん、トイレ!」この見知らぬ子は、4年生であいとくんというらしい。

彼は1リットルの紙パック入りりんごジュースを持って来てくれたので、俺は
普段母がするように、人数分のグラスにジュースを注ぎ、お盆に載せ、運んだ。

「トイレはそこの突き当たりの洗面の前だよ。座ってしてね」

「手洗った?」
こんなこと本当は俺だって、言いたくないのだけれど中には手を洗わないやつもいるし、
座らないですると、おしっこが飛散するので座ってするように家に来る友人が
トイレに立つたび逐一言わなくてはいけないのだ。

「湊くん、桃鉄やろ!」
「えー、マイクラでいいじゃん」

よしときくんはいつもと変わらず主張が少ないのだが、そうたくんとあいとくんは
一触即発状態で、家の主で最高学年の俺がなだめてまとめなくては
すごく空気が悪くなってしまいそうだった。

この時点で俺は、けっこう、疲れていた。

そのあとも触れて欲しくない、壊れやすい木工工作を「これなに?」と
手を伸ばすのを静止し、ラジコンをみんなの分用意したり、油分のついて手指を拭かせたり
とにかく目を光らせ、俺はがんばったのだ。

それからあいとくんのママが迎えに来たので、その日はお開きとなり
それからようやく、父が帰ってきた。

父は休みなのに、会社に行ったきりで「もーお昼ご飯食べるって言ったのに帰ってこない」
と、母がぼやいていた。

父は父でとても、大変なことがあったらしい。
キーワードは「池」だった。
父の話しは大変長いのが特徴で、訊いているうちに本題を逸れがちなのだけれど、
要約すると、会社が池になって、ずぶ濡れ。だった。

俺は、泣いた。
会社が池になったからではない。

家の惨状に、己の不甲斐無さに、涙が出たのだ。
もう疲れた。うえーん。

そこから、父が怒り狂い、そうたくんの家に行ってくる。
言い出したので、俺は死に物狂いで止めた。足にしがみつき、止めた。

そこからまた色んなことがあって、明日は学校だからこのへんにするけれど
気づくと、母の血圧は273を超えていて
父に電話したのに、出なかったせいで、俺は父と今二人で暮らしている。

続。




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