【髑髏】粘膜カニューレ【再】第弍回
緑茶が運ばれてくるのを
待ちながら、アンケート兼問診票に目を落とす。
住所やら氏名、このクリニックを何で知ったか
SNSはやっているか、
希望する施術についてなど
何も考えずにペンを走らせる。
氏名『内藤 小百合』フリガナ 『ナイトウ サユリ』
生年月日『1990年8月10日』
住所『東京都赤羽岩淵**ー***日の出コーポ302』
固定電話はない・メールアドレスは面倒だから書かない。
問診票の女性の顔イラストと体の線画に対して、
気になる部分をマークして記入する。
私は目の下のクマを取りにきたのだ。
SNSのよく表示されるこのクリニック『東都美容外科』では
通常30,000円のクマ取りの施術を初回来院者限定
実質無料を謳っていた。
「無料なら試してみたいよね」
33歳という年齢に対して
客から「若い」などと言われるはあったが、
顔の造形が童顔だからだろう。
最近は昼夜問わず眠れないことが続き
目全体が落ち窪み、
下瞼には暗色の影を落としていた。
また、あわよくば二の腕の脂肪も
取りたい。
軟式テニス部だった頃、
逞しかった腕は年齢を重ねると
ともにたるみが目立ってきた。
これもどうにかしたい。
腕をマークして『二の腕の脂肪』と
迷いなく書き込んだ。
ただ、既往症や現在飲んでいる薬については
少し考えた。
飲んでいる薬が多過ぎるからだった。
こうした施術を受ける場合、飲んでいる
薬の種類によっては断られるそうだ。
どうしても施術を受けたかったのが、
逆に何もないほうが怪しまれるかもしれないと
『アレルギー性鼻炎』とだけ書いた。
元々どうなってもいい体なのだから、
施術を受けることを最優先したい。
トントントンと3回ノックして
別の女性がお茶を持って入ってきた。
鼻がなかった。
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