【髑髏】粘膜カニューレ【再】第参回

 見目の美しい、私好みの女性は

お茶をデスクに置くと

太腿を見せつけるかのように跪き

「問診票で何か分からないことは

ありませんか?」と訊いた

なぜ鼻がないのですか?と問いたかったが

至近距離で凝視すると

形の良い小さな鼻穴があったし、

いわゆるこれは「忘れ鼻」という

印象に残らない鼻をしているという

ことなのだろう。

私は相槌を打ちながら、

顔を舐め回すように観た。

好みだったから。

均一は肌色。

微塵も化粧の浮きがなく、

これほど精巧なアイラインを私は

未だかつて見たことがない。

束間のあるまつげ、

巻かれた髪の毛はうねうねした

曲線の針金のようバレッタでまとめあげ

後毛までが計算された美しさがある。

生来こんな姿に生まれたら、もっと幸せな人生を

歩めたのだろうか。

と考えたところで思考を止めた。

「アレルギーはお薬飲んでいないですかね?」

「はい。今は飲んでいません。」

「うんうん。分かりました。あと…

性別は女性ですねー。

今日は何で来られました?」

「自転車です。」と答えると、

女性が手を動かす。

空欄があったらしい。

「施術の内容によってはお車の運転ができないので

ご注意ください。あとこちらは駐車場の無料チケット

ですね。お渡ししておきます」

車どころか運転免許もないので、一生使わないだろうな

と思いながら無料チケットを受け取る。

「オッケーです。では、これからカウンセリングに移りますので

少々お待ちくださいね。」

忘れ鼻の女性はすらっと立ち上がり部屋を出た。

その隙にトートバックのスマホで時間を

確認した。

もう45分も経っている。

時間を確認したせいかさっきより

寒さは和らぎ、背中の痛みは消え

丸めたトレンチコートも血の痕跡が

なくなっていた。



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